


- 山根
- まずは、シチズン・オブ・ザ・イヤーの受賞をお聞きになったときの感想をお聞かせいただけますか。
- 税所
- ちょうど、就職のことやプロジェクトの今後について迷いがあった時期だったんですが、だんだん気持ちが晴れてきて、やるだけやってみようと前向きになった時、受賞のメールが来たんです。ホームページでこれまでの受賞者を見て光栄だと思いましたね。
- 山根
- 受賞された活動のきっかけは「グラミン銀行」との出会いですよね。
- 税所
- そうですね。とても運命的でした。
- 山根
- ちょうど失恋の後だとか。
- 税所
- 大学1年のころ、地元の足立区で教育プロジェクトをやろうと思っていたんですよ。塾に行けない貧しい子供たちのための学習塾のようなものを。それをいろんなところで言っていたのですが、結局やらなかったんです。彼女にふられるときそのことも言われて。有言不実行ってカッコ悪いんだと知りました。あれほどダサい自分はいなかったですね。
- 山根
- そういう有言不実行の自分を変えようとしたわけなんですね。そして、「グラミン銀行を知っていますか」という本が人生を変えることになる。
- 税所
- バングラデシュで、貧しい女性にお金を貸すというプロジェクトなのですが、ユヌス博士がたったひとりで、しかも20〜30ドルで始めたんです。それが国中に広まり、いろんな村で多くの女性が加入し、小さいけれどしっかりビジネスをしている。それを読んで、ひとりの人間がこんなふうに世界を変えられるんだなと、すごく感銘を受けました。
- 山根
- その日のうちに、著者の秋田大学の坪井ひろみ先生に電話をして夜行バスに乗った。
- 税所
- そうなんです(笑)。ユヌス博士を何年も取材している坪井先生なら、博士のことをもっと知ることができると思ったし、つながりもあるだろうと思いました。
- 山根
- その行動力にはやっぱりみんなビックリしますよね。
- 税所
- それくらいインパクトがあったんです。こんなに感銘を受けた本だったら、著者の先生に絶対会いたいって思いました。お話を伺ううちに、これはどうしても実際にいかなければと。
- 山根
- それから1カ月後には、もうバングラデシュまで行ってしまう。グラミン銀行に行って、貧しい農村で女性たちがどういう風にしているかを実際に見たわけですね。
- 税所
- 強烈に覚えているのは、女性たちのまなざしの強さですね。彼女たちがやっているのは、小さいお店を開いて雑貨を売るとか、牛を飼って牛乳を売るといったささやかなビジネスなのですが、ユヌス博士が女性たちにお金を貸すのは、相手を信頼して尊厳を持たせる意味もあるのだと思いました。