CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

受賞者一覧

2012年度受賞

吉村 隆樹さん

「思いを伝える」ソフトの開発に着手

会社の仕事に打ち込みながら、自分の時間を利用して障害者のパソコン操作支援ソフトを開発していた吉村さんは、地元の保健師から「体が動かせないお年寄りでも、コミュニケーションがとれる良い方法はないでしょうか」と相談を受けた。

「もし、マウスやキーボードが使えなくても文字入力ができれば、パソコンでコミュニケーションがとれる」。思いを伝えられないつらさを人一倍知る吉村さんは、一緒に相談を受けた仲間と共に、以前考えたことのある50音表を半分ずつ絞り込んで文字入力をするソフトの開発に取りかかった。

吉村さんの斬新なアイデアと、開発への情熱に仲間も全面協力。最初に仕上がったソフトを試し、これでいけると確かめたうえで、印刷やメール機能を加え、漢字入力のための辞書を7人がかりで半年かけて作り上げた。

新しいソフトは、機能性だけでなく、誰もが見やすい画面にするため、友人の女性がデザイン制作に協力してくれ、より明るく温かみのあるものになった。

こころのかけはし「ハーティーラダー」誕生

仲間全員の情熱が注がれたソフトは、次第に「文字を入力するもの」から、「思いを伝えるもの」へと仕上がっていった。今まで作ったどのソフトよりも難しかったそうだが、「使ってくださる人のことを想像し、どうすればうまく使っていただけるか、喜んでいただけるかを常に考えて開発しました」と吉村さんは振り返る。

多くの仲間と一緒に完成させたソフトに、吉村さんは「こころのかけはし」という意味を込めて、「ハーティーラダー(Hearty Ladder)」と名付けた。そして、無料で公開したいと仲間に相談すると、全員がその場で気持ちよく賛成してくれた。吉村さんは、その時のうれしい気持ちを今でも忘れないという。

2000年8月10日、公開された「ハーティーラダー」は、数日のうちに500人もの人がダウンロード。「こんなソフトを待っていた」などの反響に、吉村さんは体が震えるほどの喜びを感じた。

母親のアヤ子さんは、思ったことをやり遂げる吉村さんについて、「小さいときから頑張り屋で、『無理だよ』という言葉が嫌いで、何でも自分でできると信じている子でした」と話す。

皆に支えられ、必要とする人がいる限り挑戦は続く

吉村さんは2011年、「ハーティーラダー」に、病気の進行で声を失う難病患者のため「マイボイス」という機能を加えた。自分の声を登録しておけば、入力した文章がその声で読み上げられるというもので、東京都立神経病院の作業療法士・本間武蔵さんの依頼を受け、5年がかりで作り上げた。

市販のソフトが百万円程度と高額で声の登録に半日かかるのに比べ、「マイボイス」は五十音順や濁音など126音素だけで、15分程の録音で済むので、病気が進行した患者への負荷も少ない。しかも、無償で提供しており、これまで100人以上が声の登録をしている。残した自分の声で会話できるということは、意思だけでなく心も伝えられると、多くの患者さんや家族の生きる支えとなっている。「より人間らしい自然な話し方になるよう、今でも試行錯誤しています」と、吉村さんは日々改良を続けている。

「息子の優輝も、少しずつこのソフトの持つ意味が分かってきているようです」と、優しい父親の表情を見せる吉村さん。障害があっても自分の思いを伝え、心が通じ合ってほしいと、必要とする人がいる限り新しいアイデアに挑み続ける。

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