特別対談

山根 基世さん & 阪井 ひとみさん

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同じ命だという憤りが全力で走り続ける原動力に

画像:阪井 ひとみさん
山根
ホームレスの方たちは、その部屋に入り住民票を取ることができるようになりました。それはとても大きなことだそうですね。
阪井
住民票があることで、履歴書に住所が書けて仕事を探すことができ、収入を得る道が開けます。更新できなかった運転免許証も、再取得の手続きができるんです。生きるために何かしようとするとき、住民票は必要条件なのです。それと、部屋を借り上げたとき、2部屋を炊き出しに使わせてほしいと頼みました。炊き出しはどこも野外でやっていますが、雨が降れば濡れてしまうし、そもそもプライバシーがありません。部屋で炊き出しをするようにしたら、じっくり話をする機会が増えて困っていることも話してくれるようになり、ボランティアでお医者さんが来てくれるようにもなりました。
画像:山根 基世さん
山根
阪井さんは誰に対しても、その痛みを我が痛みとして感じるんですね。子どものころからそうなのですか。
阪井
祖母がよく「物事は、みな自分のことだと思って考えなさい」と言っていたのが、自然に身に付いたのかもしれません。
山根
親や祖父母の生き方って、子どもたちはしっかり見ていますね。それで、宅建業の資格も子育て中に取得されました。そうして不動産業に入ったことが、入居支援活動につながったんですね。
阪井
新築物件の管理を少しずつし始めたころに、活動のきっかけとなる方と出会ったのです。その後、精神障害の方が住んでいる部屋を初めて見たときのことは、今でも覚えています。「これが本当に家ですか!廃墟よりひどいじゃないですか」って、自分でもずいぶん失礼なことを言いました。「そこに住まわされている人も同じ人間じゃないか」と、ものすごく憤りを感じて。「どうして今までこのままだったのか、ご本人の権利は誰が守っているのか」と思い、本格的に入居支援を始めたのです。
画像:昨年末に阪井さんが主催した「年越しそば」の炊き出しには、200名近くが参加
山根
世の中の理不尽って、みんな見て何かを感じているはずなのに、目をそらして見ないふりをするか、動かないんです。私だってそれを見たら何とかしなくちゃと思うけど、どう動いていいか分からない。でも、阪井さんはその人たちを助けるためすぐに的確に動いていらっしゃる。
阪井
ただ、私が精神障害の方の支援を始めたことで、娘は4人とも学校の友達にいろいろ言われたようで、「もう、やめて」って泣かれたこともありました。でも「お母さんは、何も悪いことはしていないから」と続けたんです。今はみな理解してくれて、年末年始の炊き出しにも協力してくれています。

一生懸命に話を聞けば相手も本音で応えてくれる

画像:毎日のように「サクラソウ」を訪れる阪井さん
阪井
入居支援は、私も仲介料をいただきますから、ホームレスの方であろうとお客様なのです。ちゃんと商売もしているんです。
山根
一方的なボランティアではないんですね。私はそこもすごいと思うし、そうでなければ活動としても続かないでしょう。
阪井
ビジネスになっていなければ私の独りよがりになって、後の人に続かないかもしれません。
山根
仕組みを作るということがとても大事なんですね。それでも私は、阪井さんの人間力がなければこの活動は成り立たないと思っています。どうしてみんなが「阪井のおばちゃん」って慕ってくると思われますか。
阪井
どうでしょう。ただ、本音でぶつかって、嘘はつきませんね。
山根
でも、本当のことを言っちゃいけないようなときもあるでしょう。
阪井
「おばちゃんはこう思うんだけど、どうだろう?」という言い方はしますね。相手がわがまま過ぎるときは、「それで、よく今まで頑張ってこられたね。みんな離れたでしょう」って(笑)。わがままって病気のせいかもしれませんから、「普通はそこまで言えないよね。病気のせいかなぁ」っていうと、相手も「そうかぁ」と納得したり。
山根
本音で向き合えば相手も心を開くわね。
画像:「サクラソウ」敷地内の作業所だった場所を利用し、入居者たちが交代で店長を務めて貴重な交流の場となっているカフェ「ノア」
阪井
それから私はまず褒めます。「そのネクタイ素敵ね、どこで買ったん」って聞くと、「うん、こないだ大阪行ったとき買ったん」とか、何気ない話からキャッチボールが始まるので。それから、本人の得意なことや、今までどんなことがあったのか聞きます。
山根
阪井さんは精神科のお医者さんも兼ねているわね。今、自分の周りに話を聞いてくれる人がいない方が多いんです。
阪井
私は相手の顔色が悪ければ本当に心配だし、相手の話を全部聞き逃すまいと思って相談に乗っています。心の病気の人って私たちよりずっと気持が繊細なので、こちらが一生懸命話を聞いているかどうか伝わるんです。
山根
私も『こころの声を「聴く力」』という本を書いたのですが、今日の阪井さんのお話しには本当に教わることが多く勉強になりました。本日はありがとうございました。

(敬称略)

画像:対談風景
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