不登校児だった娘のほのさんと、不登校の娘と向き合った母・小沢ちえさんは、それぞれの経験を生かし、不登校に悩む親子の気持ちを聞く母娘カウンセラーだ。母娘が二人三脚で対応し、相談者である親と子それぞれの気持ちに応えられるカウンセリングは全国でも珍しい。
名古屋市在住のほのさんは、中学に入って間もなく、教師への不信から学校に行くのをやめた。ちえさんは当初、学校に行かないことが受け入れられず、ほのさんとけんかする日々。相談する所もなく、自分を責めたり、心配が絶えなかったちえさんは、娘のそばにいた方がいいのではと考え、当時勤務していた会社を1カ月間休職。この時、娘の気持ちが知りたいと、心理カウンセラーの資格を取得。のちにNLPマスタープラクティショナーやACE認定チャイルドマインダーの資格も取った。
不登校になって半年経ったころ、もともと絵を描くのが好きだったほのさんは毎週、自分で探してきたデザイン専門学校の体験学習に通うようになった。その学校の教師に、ほのさんの画力をほめられたちえさんは「娘を信じよう」と決心。ほのさんは中学校を卒業後、この専門学校に進学し、授業を休むことなく卒業した。そして、今はイラストレーターとして活動している。
ほのさんの不登校を経験したちえさんは、知人から親子で娘の不登校を相談されたのをきっかけに、ほのさんを巻き込み、不登校に悩む親子の相談を始める。相談者は口コミで広がり、2022年、公式LINE「じぶんらしさ商店」を開設。母娘カウンセリングをスタートさせた。「学校に行く、行かないは目的でなく、不登校の子もその親も『じぶんらしく生きる』ことが大事」という思いを込めて命名した「じぶんらしさ商店」の活動のメインは、相談者の自宅に赴き対面で行うカウンセリング。初回90分1,000円で、2回目以降は1回60分9,000円、90分12,000円など。有料なのは、対価を払ってもらうことでカウンセリングがおざなりにならないようにするためだ。例えば初回の90分コースでは、最初の45分は親と子に分けて話を聞き、残りの45分で親子一緒に話をする。子のカウンセリングでは、ほのさんは共通の話題を見つけたり、ゲームをやりながらなど、子が話しやすい環境を整えてから行う。そのため「親には言わないで」とほのさんには心を開いて自分の気持ちを伝える子が少なくない。親と子がそれぞれの思いを伝えあうことで、お互いの自分らしさを見つけることを目指す。また、講演会や市内で開催されるマルシェのひとり親向け無料相談会などを通して、不登校に悩む親子の相談に対応する。これまでの2年間で相談に訪れた親子は80組超。カウンセリング期間は様々だが、現在15~20組の相談を抱えている。地元・愛知を含めた三重、岐阜の東海3県からがほとんどだ。
不登校になるのは友だちとの問題など理由は様々だ。文部科学省の2023年度調査では、全国の不登校児童・生徒は34万人を超え、過去最多を記録した。「何かと口を出し、子どもに選択させない親が多い」とちえさんは言う。そうなると子どもは委縮し、不登校から抜け出せない。自分もそうだったとちえさんは振り返る。子どもが自分で考え、選択し、「自分らしく生きること」こそが大事なのだ。ほのさんも、「相談を受けた子が自分で決断できるようになった時が一番うれしい」と言う。ちえさんには自分の経験をまとめた本を出版するという夢がある。自分の失敗を知ってもらうことが、いま不登校に悩む人たちの助けになるのではないか、と。その夢がいま動きつつある。
受賞コメント
「嘘でしょ!?」 受賞の知らせを聞いた時の、私たち親子の言葉でした。私と娘、それぞれの経験を悩んで困っている不登校の親子さんの力に少しでもなれれば…と始めたカウンセリングが、こんなに素晴らしい賞をいただけるなんて、言葉にできないくらい嬉しいです。年々増えている不登校。今後も1人でも多くの親子さんに【じぶんらしさ】を見つけてもらい、本当の親子関係を築き、一歩ずつ前に進むお手伝いしていこう!と、改めて娘と誓いました。