CITIZEN OF THE YEAR 社会に感動を与える人々を応援します。

対談

子どものころの原体験が社会の矛盾に立ち向かう力に

  • 山根
  • 大学を休学してバングラデシュに行き、グラミン銀行で日本人初のコーディネーターに採用され、そこで今回受賞した活動のアイデアが湧いてきたんですね。
  • 税所
  • 農村の学校をたくさん回っているときに、どこでも先生が足りないという話を聞いたんです。 ふいに、時間を遡るように記憶がよみがえりました。僕が受けた映像授業を使えば、先生不足は解決できるし、みんなが一流の先生の授業を受けられるんじゃないかと。
  • 山根
  • 貧しい農村の高校生を選んだ理由は何だったんですか。
  • 税所
  • 僕が経験したような教育モデルで彼らが勉強したら、現状を変えられるというポテンシャルをすごく感じたんです。可能性がもったいないと思いました。すごく伸びるに違いない高校生がたくさんいたんです。それに、誰でもその国で一番いい先生の授業を受けたいじゃないですか。受ける権利もあると思うし、先生たちも教えたいと思っているはずです。でも実際に受けられる生徒は限られている。それが、パソコンを使った映像授業なら平等に受けられるんです。そういう仕組みは僕たちの世代が良く知っているから、やれるんじゃないかと思いました。
  • 山根
  • 税所さんは、これまでもカンボジアに井戸を掘るお金を学校で集めて寄付するような、チャリティーとかボランティアとか、そういう活動に非常に関心を持って実行していますよね。それはどうしてなのでしょう。
  • 税所
  • 僕のばあちゃんは中国人なんですが、上海で日本人のじいちゃんと結婚して、それでかあちゃんが生まれて、そのあと日本に来たんです。小学生のころから、ばあちゃんは、たばこ工場で働き詰めだったこととか、上海でどんなに苦労したかなど、涙ながらに話してくれました。そういう経験があったからかもしれませんが、昔から、海外の困っている人に対して、自分に何かできないかなっていう思いがありました。
  • 山根
  • なるほど。それですとんと胸に落ちました。なぜあんなに突っ走って「人のために」と思うのか。そういう原体験があったんですね。

素晴らしい人間力でこれからも頑張ってほしい

  • 山根
  • ただ、中学の時のカンボジアに井戸を掘るための寄付は、残念な結果になったそうですね。
  • 税所
  • 数年後、スタディ・ツアーで現地に行く機会があって見に行ったのですが、井戸の周りに柵ができていて、使われていないのがひと目で分かりました。
  • 山根
  • 良いことをしたと思っていたことが、結果的に役立っていなかった。それで、チャリティー活動などに疑問を持つようになったのですか。
  • 税所
  • 一方的に善意をパスするだけではだめなんだ、ということが分かりました。お金や物をあげますという行為じゃなくて、何をするにも、一緒になってやらなければだめだと考えるようになりました。
  • 山根
  • その一つが、今も続けている、教育環境に恵まれない高校生たちの進学を支援する活動ということになりますか。
『e-Education プロジェクト』のスタート時に、生徒全員と
  • 税所
  • そうですね。秋田大学の坪井先生にも、現地の人に寄り添うことが一番大切だと言われましたが本当にそうだと思います。新しいことをしようとすると、いろいろ難しいことも多いですけど。
  • 山根
  • 税所さんは、何か行き詰ると必ず素晴らしい大人や友人に出会っている気がします。一橋大学の米倉先生もあなたのことを評価していますし。
  • 税所
  • 僕の前では評価しないんですよ(笑)。でも、ほかの誰かが僕のことを聞くと、褒めるらしいんです。高校生の時から、僕は他の生徒とは何か違うみたいだ、というのはなんとなく感じていて、けっこうしんどい時もあったのですが、米倉先生は、君は君のままでいいんだって言ってくれました。
  • 山根
  • そういう話を聞くと、やはり私たち大人が若い人をきちんと励ましていかないといけないと思います。バングラデシュから九州大学へいらっしゃっている、アシル先生にも認められたそうですね。
  • 税所
  • ベンガル語も英語も下手だけど、コミュニケーションは達人だって言われました。
  • 山根
  • それはすごいことですよ。あなたが持っている人間力だと思います。色々な人からの励ましは自分にとって支えになるでしょう。
  • 税所
  • なります。そういう勇気の出る言葉をもらったときは、パソコンに打って保存しておくんです。それで、日本に帰りたいな、なんて弱気になったとき、こっそり開いて見ています。そういう言葉が、もう300くらいになっています。
  • 山根
  • そうして頑張った映像授業で、ダッカ大学に見事合格者を出したんですね。その時はどんな気持ちでした。
  • 税所
  • 色々な方から期待されていたので、うれしかったのと同時に、本当にほっとしました。これで来年も続けられるって思いました。僕が最終的に実現したいのは、どこに生まれた生徒でも最高の先生にアクセスできることなんです。やがては世界中の先生から学べる時代にしたい。そのために僕たちは活動を続けています。
  • 山根
  • 税所さんのような若い世代の人が、すごい行動力と、世の中を変えたいという情熱を持っていることが、私たちにとって大きな希望です。これからも頑張ってください。
  • 税所
  • ありがとうございます!
    (敬称略)
首都ダッカから約8時間かかるハムチャー村で始まった一流講師による映像授業
言葉も国境も越えてコミュニケーションの達人だといわれる税所さん
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